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4月30日

研究テーマ:荻生徂徠の「軍法」学――『鈐録』を中心に

研究テーマ:荻生徂徠の「軍法」学――『鈐録』を中心に

 戦後、日本にも中国にも、儒教は一度保守的、封建的として否定された。しかし、最近では儒教だけではなく、こういった伝統文化を見直そうとする動きが現れ始めた。最初は東アジア諸国の飛躍的な経済発展から、欧米の学者はこの現象の背後は必ず何か共通のするものがあるとして考えた。その結果、東アジアにおける共通する文化として儒教の存在を想定したのである。この説の正否について争議があるが、これが切っ掛けであることは間違いないであろう。

しかし、高速な発展は社会的、倫理的問題を引き起こすことがつきものである。すでに十九世紀のヨーロッパで科学的合理主義に支配された不毛な精神状況の中、ニーチェは「神は死んだ」という有名な時代診断を下した訳であるし、現在の我々も同様な問題に直面していると私は思っている。私はこの世に完全なオリジナルはない、すべては過去の積み重ねであると考え、変化する時代に追い詰められ、行き詰まりになった時こそ、伝統的なものを見直す必要があるのであろう。更に、これから東アジア、特に日中韓の間に経済面だけでなく、社会や文化など、色々な分野で交流し、協調せねばならないであろう。そのために共通文化である儒教を取り上げる必要がある。加地伸行氏の説によると、現代になっても、儒教のいくつかの特定の道徳は崩壊しているにもかかわらず、その基盤自身は微動だにもせず、今だに東北アジアの人々の中に浸透しているのである。つまり、儒教は昔から今まで、国レベルを超えたものである。そしてこれからも、国を超えて「東洋」の儒教としての役割を果たすべきである。

私は江戸儒学を志したのも、こういった考えに基いたことである。言うまでもなく、江戸時代は日本儒教の一番盛んだ時期であって、中国から、或は朝鮮経由で日本に入った儒教はそこでどのような形で受容され、そしてどのような発展を遂げたことの解明によって、その共通性を見出すことができるのであろう。

江戸時代の幕府政権は、現代風で言えば、言わば軍事政権である。しかし、二百五十年の政権を維持してきた徳川幕府は決して単純な軍国主義者ではなかった。軍事政権である以上国を治めること自体も戦闘に備えるためのものであったが、逆に言えば、幕府政権の担い手として構成しているのは武士達にとって、兵学は単なる戦いのためのものだけではなく、国を治める為のものでもあった。更に江戸時代の兵学者の中にこれを天人関係まで持上げた者までいた。従って、江戸思想を語るに兵学を無視することはできないのである。中でも、荻生徂徠の『鈐録』は戚継光の『紀効新書』をほぼ完全に取り入れたものとして、江戸時代における中国兵家思想の受容にとっても大変重要な著作である。特に彼が大将の責任を重視する主張は丸山眞男氏が言う近代日本軍国支配者の「無責任の体系」を想起され、その意義の重大さは言葉を費やす必要はないであろう。

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